その生存者・・・魔術師部隊の輸送車両の運転手の話によれば、彼らはカレーに上陸する前から独断で動く事を決めていたようだ。

ドーヴァー横断直前、彼ら運転手を集めると他愛の無い会話を始めたのだが、途中から彼らの言葉が絶対だと何故だか思い込むようになり彼らの言うがまま上陸と同時にブリュッセルさらにはドイツにまで進発しようとしていた。

たとえ『六王権』軍が現れても協会のエリートである自分達ならば容易く撃退できると信じて・・・正確には思い込んで。

だが、数キロ進軍した所で突然それは訪れた。

突然輸送していた軍用車両のタイヤが悉くパンクした。

それを修理しようと車から降りた運転手の首が突然切り落とされた。

まるで透明な刀やギロチンで切り落とされたように。

それに慌てて車両から飛び降り戦闘態勢を取ろうとした魔術師部隊は一人残さずその首を刎ねられた。

その光景に恐怖した同僚の運転手達も恐怖に車を捨てて逃げようとしたが、直ぐに首を刎ねられた。

たまたま車両から出なかった、いや出れなかった彼だけが助かった。

こうして協会上層部が自信をもって送り出した自称精鋭部隊は『六王権』軍と戦火を交える前に全滅した。

五十一『最終布告』

この知らせは直ぐにロンドンにも送られた。

「・・・呆れて物も言えないわね。出し抜こうと勝手な行動をとってその挙句に戦う前に全滅なんて」

「同感ですわ」

詳細を知った凛、ルヴィアは酷評をもって斬って捨てた。

「それでリン、協会は今回の件はどのように考えているのですか?」

「上は今回の事はあくまでも前線の独断で片付けたがっているらしいわ」

「そうも行くまい。ウェイバーの話だと、全滅した連中は上の連中が精鋭だと推薦してきた奴らばかりと聞く。だが現実としては命令もろくに守らず、勝手に突っ走って自滅した。そんな奴らを前線に送り出した責任は負わねばならぬ」

イスカンダルの口調に怒りが混じっているのは王として、また、かの『東方遠征』で軍を率いて、人の上に立って来たからこそ、今回の事態を前線部隊に責任を押し付けようとする上層部に憤っているのだろう。

現にその後直ぐにパリを解放し、西部ヨーロッパ解放拠点設置とパリ復興を『クロンの大隊』に任せて一時帰還してきたバルトメロイはウェイバーと共に、全滅した部隊を前線に派遣するよう強く要請してきた上層部の責任を追及している。

不幸中の幸いとして到着して直ぐのまだ敵との遭遇も無かったからまた良かったが、こんな事を戦闘時にされては勝てる戦いも勝てる筈が無い、そう言った危機感もあった。

「それはそれとしてだ。気になるのは何者がどのようにして一瞬の内に部隊を全滅させたのかだ」

ディルムッドの声に全員思考を切り替える。

「誰も見ていないのよね」

「そうらしいですわね、生き残った運転手も追いついた部隊も」

「考えられるのは超高速で接近、部隊を全滅させてやはり超高速で離脱した・・・」

「考えにくいな。単体であるならばまだしも部隊は相当数いた筈、誰一人として敵襲に気付かなかった等考えられぬ」

ディルムッドの推測にヘラクレスが疑問を呈する。

確かに全滅した部隊の魔術師達には抵抗の痕跡は一切見られなかった。

それどころか、発見した時に未だ意識を保っていた生首もあったほどだ。

その首もしきりに何故自分達の首が刎ねられているのかその疑問を死ぬまで口にしていた。

それだけの速さで同時に首を刎ねるそんな事が可能なのか?

志貴の『疾空』ですら、そんな事は不可能。

「では何者がどうやって・・・」

ディルムッドの疑問は解消される事はなかった。









パリ、セビーリャ、モスクワと三都市を解放し勢いづくかと思われた『モンゴル』作戦だったが、その後、進軍はぱったりと止まってしまった。

未だ欧州本土にて沈黙を続ける『六王権』軍本隊への警戒もさる事ながら、補給態勢の不備が目立ち始めていた。

何しろ未だにアメリカの内乱は収まらず、イスラム教圏での過激派の蜂起も拡大を続けている。

先日には遂にインドでイスラム教徒とヒンズー教徒が全面的な衝突を起こした事に加えてインド自体も隣国パキスタンとの全面戦争に突入したとのニュースが全世界に掛け巡った。

またこの動乱で火が付いたのか中央アジアや中国等、強権支配を続けている国でも解放や民主化を求める市民がデモを起こしそれを各国政府は警察、治安当局が武力での鎮圧を目論んだが、武装していた市民もそれに応戦。

次々と今まで強引に封じ込められていた矛盾や不平不満が連鎖的に爆発を続けている。

特に中国でのそれは苛烈を極めた。

『モンゴル』作戦立案時は、ロシア方面解放軍に参加する予定であったのだが、あのアメリカでの内乱、イスラム過激派の一斉蜂起とほぼ同時に中国でもチベット、ウイグル等の自治区でのデモが多発した為、国内の治安維持を名目として後方支援に縮小された。

しかし、『モンゴル』作戦始動後、デモは中国当局の治安維持を目的とした弾圧に反発して暴動に変化しつつあり『モンゴル』作戦自体からの撤退すら視野に入りつつある。

傍目から見れば勝手な行動に見えるが、それだけ中国国内の治安は悪化していた。

自治区はもとより、国内でも民主化を求めるデモが激化しているので治安部隊の数が圧倒的に足りず、とうとう軍をも動員したほどだ。

また、前線ではあの不可解な斬首事件が後を絶たず、既に合計で千人近い死者を出している。

そのために動くに動けずその状況は一月以上続く事になった。

だが、そんな世界情勢に良くも悪くも無関係な国もある。

その一つは日本だった。









日本でも『モンゴル』作戦に後方支援でも援護を行うべきとの声が政府から上がっていた。

また国連やEU、不参加したアメリカ等先進各国でも日本が更に大きな役割を担う事を期待する声も大きかった。

しかし、それも野党の猛反発、また国民の未だ根深い戦争への嫌悪による反対により阻まれていた。

何しろ日本は半世紀以上前の太平洋戦争時、敗戦を経験している。

それも余裕のある敗戦ではなく、追い詰められ、徹底的に叩きのめされ、完膚なきまでに破壊され尽くされた敗戦をだ。

国民は飢え、ぎりぎりの生活を強いられて塗炭の苦しみを味わい、前線の兵士も無能な司令部の無謀な作戦に犬死されて、国土は徹底的な爆撃で痛めつけられ止めとばかりに世界初の核兵器の被害を受けた。

これだけの敗戦を経験し、その苦しみ痛みを我々日本人は遺伝子レベルにまで刻み付けた。

もう戦争はしたくない、その思いがあの世界でも類を見ない戦争放棄を高らかに謳い上げた憲法九条を創り上げた。

それ自体は決して負ではないし、間違いである筈がない。

完全に破壊され荒廃した日本を半世紀で世界でもトップクラスの先進国にまで復興したのには様々な要因はあるが憲法九条も大きな役割を担っていた事は間違いない。

問題はそれを我々日本人は金科玉条の如く神聖視してしまった事だ。

憲法は基本的なルールのようなもの。

ルールであるならば現実を見て柔軟に変更していく、それも生きていく知恵の一つ。

しかし、神聖視、絶対視してしまえばそれを変える事は出来ない。

現実を理想が乖離していると理想のみを見て現実を見ようとしない、いや見る事が出来ない。

憲法も人が創った物、不合理が出てきたらそれを直すのは当然だ。

だが、一部を神聖視してしまえばその不合理を直す事も出来なくなる。

家で例えるならば、この部屋を壊すなと言って家全体の修繕を拒否するようなものだ。

そうなればやがて家は倒壊するだろう。

話は逸れたが、『モンゴル』作戦が発動して数ヶ月経つが、未だに日本は参加するのか不参加なのか態度をはっきりさせず、インド洋にてイラク戦争時に派遣した小規模の給油活動を『モンゴル』作戦の後方支援とするのが精一杯だった。

呆れた事に野党の一部からは日本が率先して『六王権』と対話しこの混乱を収めるよう国連に訴えるべきと主張する声まであった。

それを尻目に士郎が『七星館』を久しぶりに訪れたのは十二月初めの事だった。

此処最近、士郎はいよいよ祝言も近づいた大河と零観の結婚式の準備に大忙しだった。

式場に関しては柳洞寺で行う事が決定している。

当初は様々な意見が出されたのだが、当事者達が柳洞寺で良いと言ったのでそれで決定してのだ。

料理は注文を出そうかと言う話もあったのだが、大河が『士郎の料理が良い』と駄々をこね、それに士郎の料理に飢えていた寺の僧達もこぞって賛同、士郎は連日柳洞寺で準備に大露わを余儀なくされた。

ではその忙しい合間を縫って何故『七星館』を訪れたかと言えば、

「お邪魔します」

士郎が『七星館』の志貴の部屋に入ると志貴を取り囲む様に『七夫人』、レン、朱鷺恵、青子が並び、志貴の傍で真剣な表情で包帯越しに目蓋を触れる女性がいた。

薄い水色の髪をショートにカットした眼鏡の女性、彼女こそ『ミス・オレンジ』と呼ばれ稀代の人形使いの呼び名の高い青子の姉、蒼崎橙子。

どうして彼女が此処に来ているのかといえば、橙子の見立てで義眼と視神経の接続が完了するのが今日だった。

それで彼女自ら接続が完了したかどうか確認の為に此処まで来たのだ。

「どうなのよ?姉貴志貴の眼は」

焦れた様にたずねる青子に

「騒ぐな。もう少しで終わる」

ぶっきらぼうに一言で切って捨てた。

数分後、ようやく志貴から視線を外した橙子はただ一言結論を告げた。

「問題ない。視神経は義眼と繋がった。包帯を取って眼を開けても支障ない」

その言葉に安堵と歓声が響く。

「おや、誰かと思えば衛宮もいたのか?」

「ご無沙汰しています。橙子さん。それで肝心の魔眼の方は」

「それについてはまだ何とも言えん。本人の方で実際に使用してみない事にはな」

そう言ってから橙子は志貴の包帯を取り去る。

志貴の両の目蓋にはグランスルグとの死闘によって付けられた傷跡が生々しく残っている。

「じゃあゆっくりと眼を開けてみろ」

橙子に言われて志貴はゆっくりと眼を開ける。

開かれたその眼は本物と寸分の違いも見つける事が出来ずとても義眼とは思えない。

眼を開けた志貴はゆっくりと周囲を見渡していたがやがてゆっくりと微笑み、

「ありがとうございました橙子さん」

まずは橙子に深々と頭を下げてから

「心配かけてごめん、琥珀、翡翠、アルクェイド、アルトルージュ、秋葉、シオン、さつき、レン、朱鷺恵姉さん、先生、士郎」

一人一人の顔を見てそう言った。

それと同時に歓声が再度上がり、

「「志貴ちゃん!!」」

いち早く動いた『双正妻』が志貴に抱きついた。

「ぶー、二人に先越されたー」

それを見てアルクェイドがぶー垂れるがその顔は満面の笑みだった。

「とりあえず視力は問題ないな。では後は自分でどうにかしてくれ」

それだけ言うと橙子はそっけなく立ち上がり、自身のトランクを手にすると、

「ではこれで失礼する」

「あっ、お茶でも」

「ご厚意感謝するが、結構」

さつきの呼びかけにもそっけなく答えて『七星館』を後にしてしまった。








「さてと・・・」

ひとしきり騒いだ後、志貴は中庭に出ると久々に『七つ夜』を構え魔眼を解放する。

『直死の魔眼』が正常に働くかの試験の為だ。

直ぐに志貴の視界には死線と死点が姿を現した。

「見えるな良し・・・じゃあ士郎そこの石こっちに投げてくれ」

「了解」

士郎は足元になった人の拳大の石を志貴目掛けて投げ付ける。

それを避けるでもなく志貴は『七つ夜』で一刺しした。

と同時に、石は粉々に砕け散った。

「問題なし・・・と」

「完全復活だな。志貴」

「いや、あくまでも眼が見えるようになって魔眼は今までどおり使えただけに過ぎない。眼が使えなくなってから碌な鍛錬していないからな。鈍った身体を鍛え直さないと」

何しろ一度失明してから三ヶ月以上志貴は必要最低限の運動こそしてきたが鍛錬の類は全くしていなかった。

まあ正確には『七夫人』らが交代で志貴が無茶しないように監視していたのだが。

「そうだな、正直反攻作戦も行き詰っている。再度俺達にお呼びがかかってもおかしくないか」

「ああ、だから多少無茶でも勘を取り戻さないとならない。その時にはお前の世話になると思うけどよろしく頼む」

「わかった。とことん付き合うさ」

その時、

「ねえ志貴ちゃん・・・」

ふと翡翠が駆け寄ってきた。

「どうした翡翠」

ふと怪訝な表情をする志貴。

翡翠の表情が心なしか青褪めていたからだ。

「これ・・・」

言葉少なげに差し出したのは一通の封書。

「??どうしたんだこれ?」

「・・・私のポケットに入ってた・・・いつの間にか」

「???」

何の事か理解出来ない志貴だったが封書をあけて中身を確認した志貴もまた表情を強張らせた。

「どうした志貴」

「・・・」

無言で中身・・・便箋を手渡す。

それを確認した士郎もまた表情を強張らせる。

「志貴・・・」

「ああ・・・翡翠、少し出る。先生に師匠と教授を此処に呼ぶように頼んでおいてくれ」









トルコ、シリウリ。

つい三ヶ月前志貴達はグランスルグ率いる『六王権』軍空軍と死闘を繰り広げた。

チョルルまで解放された今では、『封印の闇』も消え失せ、ここはもう安全地帯となっている。

だが、此処に戻ってきた市民は未だ数えるほどしかおらず、戻った市民も直ぐにイスタンブールに向ってしまいさびれ朽ち果てるのも時間の問題だった。

そこに志貴と士郎はやってきた。

人気の無い中心地を静かに歩くとその二人の前に二つの人影が立ちはだかった。

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

決して遠くない、だが、一足で接近するほど近くは無い、そんな微妙な距離で双方は静かに互いを見る。

「・・・こちらの招待に来ていただいて感謝する」

やがてそんな沈黙を打ち破るように一方が口を開いた。

「招待状の送り方少しやりすぎだろう、翡翠さん完全に怯えていたぞ。届けるなら俺か志貴にしろ・・・『影の王』」

「そうか、それはすまなかった・・・『剣の王』」

そう言い合う士郎と『影』。

「で、何の様だ。こんな回りくどい方法で俺達を呼び付けて。此処でけりをつける気か?」

志貴の問い掛けを『影』は一言で否定する。

「いや・・・お前達を招待しようと思ってな」

「招待?」

「そうだ。『陰』、そして『剣の王』」

今まで黙っていた『六王権』が口を開く。

「お前たち二人を我が居城『闇千年城』に招待する。全ての決着はそこでつけよう。期日は十二月二十六日、この先のチョルルから『闇千年城』に続く道を用意する」

「言っておくが招待するのはお前達二人だけだ。誰にも邪魔はされたくない。他の者も来ても構わぬが、その時には首と胴が泣き別れするだろう」

「・・・お前の仕業かあれは?」

「さてどうかな。で、返事は?」

「決まっているだろう」

「答えなんて唯一つ」

「「その招待受けてたとう」」

二人の返事を聞いてかすかに笑みを浮かべ一つ頷く『影』、そして『六王権』。

「では、『闇千年城』にてお前と会うのを楽しみにしている、『陰』」

「ああ・・・『陽』」

「ではまた会おう、その時に最後の決着を『剣の王』」

「ああ、『影の王』」

同時に『影』と『六王権』、二人の姿は陽炎のように消え失せた。

「映像だったか・・・やはり」

「十二月二十六日・・・時間はあまり無いか、士郎、少し無茶してでも戦闘の勘取り戻さないとならないようだな」

「そうだな。琥珀さん達に怒られそうだが、俺と戦闘形式にしてやるか」

「ああ、一番効率がいい。とにかくまずは『七星館』に戻ろう。師匠や教授が来る頃だろうし」

「ああ」

こうしてシリウリから『七星館』に戻った志貴達だったが、それを待っていた様に全世界の人類の脳裏とあらゆる映像媒体に『六王権』が再び姿を現した。

そしておもむろに告げた。

「愚かしき人類に『六王権』が最終布告を告げる。お前達に夜明けは迎えさせぬ。十二月二十七日我々は総攻撃を開始する」

ただそれだけを告げた後『六王権』の姿は掻き消された。









突然の最終布告とも呼べる宣告の後、志貴達は話し合いを始める。

といってもまずは志貴と士郎、二人が『闇千年城』へ招待された事の報告だったが。

「無茶や」

開口一番反対を口にしたのはコーバックだった。

「弱体化したとはいえ未だその軍勢は巨大、側近衆も健在だ。そこに行く等自分から望んで虎口に飛び込むようなものだ。そのような危険冒させる訳にはいかぬ」

続いてゼルレッチも反対する。

残る青子も『七夫人』も全員反対だった。

特に『七夫人』全員の反対は大きく、中には志貴と一緒に『闇千年城』に行くと言い出す者まで出てくる始末だった。

だが、それを

「駄目だ!!」

志貴はかつてないほど厳しい、いや激しい声で拒否した。

「・・・確証は無いが今前線で起こっている斬首事件、あれは『六王権』側の手で行われた可能性がある。現に『影の王』がその含みを持たせていた」

「俺達を心配してくれる気持ちは嬉しいけど、その危険な賭けにお前達の命を天秤にかける訳には行かない」

それからしばし激しい押し問答が起こったが、志貴、士郎の決意が固いとわかるや青子とシオンが渋々認め、それに続くように全員肩を落として認めざるおえなかった。

「ごめんな皆、やっと目が治った矢先に申し訳ないけど・・・あいつとは俺が決着をつけないとならないんだ。それがお師匠様の頼みだから」

志貴が心底から申し訳なさそうにそう告げた。

「判った。こうなれば、我々も可能な限り支援しよう」

「ありがとうございます師匠」

「さて、次はアルトリア達の方だな、同じ位反対されるだろうし」

ややげんなりしてロンドンに向おうとした士郎だったが、

「ああ、士郎、お前から説明する事はない。今遠坂に連絡を入れてその旨は伝えた。後は説得だけだ」

ゼルレッチがさらりと言ってのけた。

「は、はははは・・・ご丁寧にありがとうございます」

説明を省いてくれた事への感謝と何の心構えも出来ていない内になんて事してくれるんだと言う文句、そしてどうせなら説得もして欲しかったと懇願等が無い混ざった声で、棒読みの感謝の気持ちを述べた。

その語尾に重なるように士郎の携帯が着信を告げる。

着信相手は予想通りの相手。

恐る恐る電話に出て見る。

「も」

士郎!!!

士郎がもしもしを言う前に鼓膜を破るほどの大声が携帯を文字通り振るわせる。

「ぁぁぁぁぁ・・・」

問答無用の大声に携帯を放り投げて蹲り、しばし悶絶する士郎。

放り投げられた携帯からはおそらく凛の怒号とも罵声とも付かない詰問が離れていても良く聞こえた。

「あー、もしもし遠坂さん?」

『って聞いているの!士郎!・・って志貴??』

「はい、士郎なら電話に出た瞬間耳押さえて悶絶してますが」

『悶絶って・・・』

「離れていても良く聞こえてましたよ怒号や罵声。師匠達も聞いていましたし」

そこまで言うとばつが悪そうにようやく口を噤んだ。

「とにかく今から士郎と一緒にそっちに行きます。そこで前後の事情も説明します」

『・・・判ったわ。絶対に士郎連れてきてよ』

「はい」

電話を切ると、未だ回復しきっていない士郎を担ぎ、

「じゃあちょっと士郎と一緒に説得へ行ってくる」

そういうと転移で一気にロンドンに移動して行った。

だが、この説得先程以上に手がかかり、士郎はもとより志貴までも加わり、宥めすかし、時には本気で怒鳴りあうほどの激論をし、ようやくこちらも渋々であったが了解を得たのはロンドンに向ってから半日後の事だった。

戦況は反攻期から遂に最終局面、終戦期に入ろうとしていた。

全世界を震撼させた『蒼黒戦争』も終戦は近い。

五十二話へ                                                                五十話へ